死後事務委任

あなたの死後、誰が・・・

 身内がいない独居高齢者や、身内はいるが遠方にいて細かい対応が出来ない場合(海外にいたり、九州や北海道に住んでいたり)、誰が死後の手続き(死後事務)をおこなってくれるのでしょう。※死後事務:亡くなった後の諸手続、葬儀、納骨、埋葬に関する事務等

 役所がやってくれるのではないかと思っていらしゃる方もいるとは思いますが、役所は自治体ごとのルールに従って火葬を行い、提携する寺院の合葬墓などに納骨を行うだけです。死後の手続きをしてくれるわけではありません。

 死後に必要な手続は、すべて残された親族が行うことが前提となっています。

 海外や九州・北海道などに住んでいらっしゃる方は、葬儀には来れても、その後の諸経費の支払いや、各種契約の解約等、現地でしかできないことは、何度も足を運ばなければならないので、そういった手続きが難しいのです。

 誰もそうした手続きをする人がいない場合、不動産会社や管理会社に迷惑がかかってしまいます。

 テレビで孤独死についてニュースになっていますが、あれを見てどう思いますか。

 あのニュースに出てくるのは、天涯孤独な人ばかりではありません。

 お子様がいても、あのようなことになることはあります。

 なぜなら、今の日本は核家族化しているからです。

 昔のように、三世代同居という家族はまれです。今はみんな親元から離れて暮らしています。

 

 こういう場合に力を発揮するのが、見守り契約と死後事務委任契約です。

 死後事務委任契約は、基本、見守り契約と遺言・遺言執行をセットで結びます。

 それによって、孤独死のように死んで何日もたって見つかるというようなことは起こらないし、亡くなった後家族に迷惑をかけることもありません。

 

死後事務委任契約とは

 葬儀や納骨、埋葬などに関する事務といった、亡くなった直後も手続きを第三者に行ってもらう契約を「死後事務委任契約」と言います。

死後事務(死後の手続き)の内容

【1】死亡時の病院等への駆けつけ、遺体引き取りの手配

【2】医療費の支払いに関する事務

【3】家賃・地代・管理費等の支払いと敷金・保証金等の支払いに関する事務

【4】老人ホーム等の施設利用料の支払いと入居一時金等の受領に関する事務

【5】通夜、告別式、火葬、納骨、埋葬に関する事務

【6】菩提寺の選定、墓石建立に関する事務

【7】永代供養に関する事務

【8】相続財産管理人の選任申立手続に関する事務

【9】賃借建物明渡しに関する事務

【10】行政官庁等への諸届け事務

【11】各種契約の解除

【12】以上の各事務に関する費用の支払い

 

 死後事務委任契約は民法で規定されている委任契約の一種で、あらかじめ依頼者(委任者)に希望通りに死亡後の様々な手続をしてくれる代理人(受益者)を契約によって決めておくというものです。

 

おひとり様の財産はどうなる

 近しい身寄りがないおひとり様(=相続人がいらっしゃらない方)の財産に関して、誰がこの手続きをするのでしょう。

 何もしていなければ、家庭裁判所が選任する「相続財産管理人」です。

 相続財産管理人は、相続人を探し、資産を調べ、管理・換金をします。

 しかし、死後事務委任契約で遺言を書く契約をし、その遺言で「社会のために寄付したい」という想いをお持ちの方は、そのように書いていただければ、国庫に入ることはありません。

 ただし、土地や建物は受け入れ先が寄付を断られる場合もありますので、事前に確認するか、売却により換価した後に寄付するのがよいかと思います。

 財産を残したい人がいる場会、遺言を書き、遺言執行人※を選任するか、又は、家族信託の方法で、財産を残したい人と民事信託を締結しておくごとが有効です。

※遺言執行人:遺言書に書かれている通り執行する人:遺言者はその時すでに亡くなっているので、遺言がきちんと執行されているか確かめようがない。そのため、あらかじめ遺言執行人を選任して、遺言が確実に執行するように決めておく。

 

死後事務委任契約は公正証書で

 公正証書は、公証人がその文書が偽造されたものでないこと、脅しや脅迫などなく、当事者の意思に基づいて作られたものであることを公に証明してくれるというメリットがあり、社会的信頼の高い書類です。

 特に死後事務委任契約書は、当事者が亡くなった後に効力を発揮する書類ですので、公正証書をお勧めいたします。

 亡くなった後、遺品整理で荷物の中から出てきたり、遺品と一緒に捨てられたのでは意味がありません。

 

実際の契約の組み合わせ

 死後事務委任契約は、実際には単体で契約することはありません。

 

①見守り契約

②財産管理委任契約

③任意後見契約(必ず公正証書で)

④死後事務委任契約

⑤遺言

⑥遺言執行

以上の6つの契約(死後事務委任契約を含む)を死後事務委任契約と一緒に締結しています。

 

①頭がしっかりしていて、体も元気な状態のとき

 頭もしっかりしているし、体も元気という状況の時から、将来任意後見人となる予定の人が、月1回程度本人の様子を窺うために訪問したりし、孤独死のリスクを防ぎ、死後事務委任契約を実効性のあるものにするためにする。

 

②頭はしっかりしているけど、体が不自由になり、自分で銀行に行けなくなった場合

 財産管理委任契約書を持って、受任者が銀行などへ行き、本人の代わりにお金を引き出したりする。

 

③認知症等で判断能力が低下してきた場合

 任意後見人監督人選任の申し立て手続きを家庭裁判所にする。

 ↓

 任意後見人を監督する人が選ばれる。

 ↓

 監督人のチェックの下で、財産管理を行う。

 ※なぜ監督人がつくのか?

 ご本人の判断能力が低下しているため、自分で監視できないから。

 任意後見契約が開始すると、見守り・身元引受契約は終了します(当該契約の事務は任意後見契約に引き継がれる)。

 

④亡くなった場合

 任意後見人としての業務は本人の死亡により終了。

 生前に結んでいた死後事務委任契約に基づき、葬儀の手配、納骨、病院への費用の支払い、施設の退去手続きなどをする。

 

⑤本人の希望を文書に

 相続人がいない場合であっても、財産をどうするかを聞いておく。

 

⑥本人が残した遺言内容を実現する

 本人が亡くなった後は、本当に遺言通り財産がいているのかわかりません。遺言執行者を遺言書に書いておいて、きっちりその通りになるようにする。

 

死語事務委任契約 例

40代女性 独居生活者

 離婚して一人暮らしを始めることになった。

 子供はいない。

 そうこうするうち手術を要する病気になったが、身元引受人を頼める人がいなくて困っている。

 両親や兄はいるが、過去にいざこざがあり15年近く交流がない。

 決して危険度の高い手術ではないようだが、もしものことに備えたい。

 まずは、身元保証契約をして手術にそなえ、そのあと死後事務委任契約をして、自分の死後事務を委任し、死後の財産についてお世話になった〇〇に私の財産を・・・。

 

契約内容

 見守り

 身元保証契約

 財産管理契約

 死後事務委任契約

 遺言執行者を選任した遺言又は民事信託

 

息子が遠方にいるケース

 父は一人で暮らしている。

 息子から一緒に住もうと言われているが、自分で建てた自宅を離れることはできない。

 息子は仕事の都合もあって、見守り等もできず、緊急時にすぐに駆け付けられない。

 父は、自分が亡くなった後、事務処理をするために、息子がたびたびこの家に来れないだろうと思っている。

 自分の死で、息子に迷惑をかけたくないと思い、身元保証契約と死後事務委任契約をした、最後に自分の財産を・・・。

 

契約内容契約

 見守り

 身元保証契約

 死後事務委任契約

 遺言又は家族信託 

 

子供がいない夫婦のケース

 子供がいない夫婦が、将来を心配して相談に来られました。ともに兄弟がおり、双方に甥姪がいます。

 どちらか一方が亡くなったときに動けばといわれましたが、その時に残された一方が認知症等になっていたら契約を締結することが出来ません。

 老老介護や認認介護がこれにあたります。

 お子さんがいない夫婦の場合、どちらか一方は最終的に「おひとりさま」になります。

 そうなる前に死後事務委任契約を結びました。

 

契約内容

 家族信託

 見守り

 死後事務委任契約

 

※老老介護 65歳以上の高齢者を同じく65歳以上の高齢者が介護している状態のことで、「高齢の妻が高齢の夫を介護する」「65歳以上の子供がさらに高齢の親を介護する」などのケースがあります。

2013(平成25)年に厚生労働省が行った国民生活基礎調査では、在宅介護している世帯の半数以上に当たる51.2パーセントが老老介護の状態にあるという結果が出ました。

 

※認認介護 老老介護の中でも、認知症の要介護者を認知症の介護者が介護していることを認認介護といいます。事故が起きやすい危険な介護状況の一つです。

 

2010(平成22)年に山口県で行われた調査と推計では、県内で在宅介護を行っている世帯の10.4パーセントが認認介護状態にあるとされました。
 
元々認知症は要介護状態を招く原因の上位に入っているため、高齢の要介護者には認知症の人が多いという現状があります。そうした事情を考えてみると、老老介護がやがて認認介護状態になるのはそう珍しくないことがわかるでしょう。
山口県の数字も「推計」である通り、老老介護の中には、「自分に認知症の症状がある」という自覚が無いまま介護を続けている人もいると考えられ、その割合や実態はつかみにくいものです。

 

死語事務委任契約の時期は

 死後事務委任等、終活はいつ行えばよいのでしょうか

 人は対策が出来るときには何もせず、問題を感じたときは何もできない。

 「まだ早いのでは」と思っても、貴方が亡くなるのは老衰だけではありません。いろいろな病気(例えば新型コロナとか)や、交通事故等人の死はいつなんどき発生するかわかりません。保険に入っている方も多いと思いますが、不測の事態に対応してもらうように若い時から入っていませんか。

 それと同じです。死後事務委任契約も、年齢ではなく、そういう環境になった場合は、死後事務委任を契約することをお勧めいたします。

 

 こういった資料があります。

 人は亡くなるときまで健康であり続けたいものですが、なかなかそうはいきません。

 平均的には、男性が9年、女性が12年、健康でない期間があります。

 

 

 一概には言えませんが、70歳を超えたら終活を考えることが必要ではないでしょうか。

 できれば、65歳を目安に行動しましょう。

資産凍結は認知症だけではない

 よく認知症が叫ばれていますが、資産凍結になってしまうのは認知症だけではありません。脳血管疾患も大きな原因となります。

 平成28年度時点で、65歳以上の男性の方で、介護(要介護、要支援)が必要となった原因は、認知症15%、脳血管疾患23%=38%ということです。

 

介護が必要となった主な原因